2012/09/29 13:07:10
この曲は基本的に同じ主題が何度も何度も繰り返される。
湊かなえ原作の映画「告白」で覚えがある方も多いであろう、あのフレーズである。
どこかおさまりの悪い不自然さを内包した旋律がほのかに緊迫感を香らせる、このフレーズ...
そこにえも言われぬ滑稽なエッセンスを加えたような不思議な主題である。
しかし、この主題、繰り返されるごとに、その表情を一変させる。
曲全体から臭う、まるでサーカスのような見世物感。
要求されるパフォーマンスの難易度はどれも高く、容赦ない。
ソロ、ソリでつないでいく綱渡り感は、ボレロのそれをも思わせる。
曲が始まり、まずは軍隊調の一糸乱れぬ曲芸フレーズ。
豪華絢爛!
まずは勇ましくそのフレーズを耳に焼き付けるように巨大ユニゾンで華々しく始まる!
そしてファゴットのただならぬ雰囲気。
仮面の奥に狂気を隠したオーボエが誘う。
ダブルリードカップルの幾何学的フレージングにより、不可思議な迷宮へと続く扉が開く
ちなみにファゴット、オーボエはこの曲にとって、旅先案内人のような役割である。
要所要所で顔を覗かせ、音楽の色を変える。いや、曲のさらなる深みへと誘うのだ。
一言で言うと、滅茶苦茶おいしい。
どちらかといえば、吹奏楽部的には日陰者とは言わないまでも、縁の下の力持ち的な扱いを受けがちな両者にとっては、狂気乱舞して喜ぶような曲だ。
いや、両者共そんなタイプではないかもしれない。
顔には出さず、密かにニヤニヤしながら黙々とソリの腕を磨くといったところか・・・
ある種、異色の者たち。吹奏楽の「はぐれメタル的存在」な彼らである。
そして、何といってもこの曲の本体である、真のカオス、複雑怪奇さが爆発するのが、低音ユニゾンの後のファゴットのソリであろう。
聞きなれない奇妙な音の雰囲気に思わず身を乗り出させてしまう。
魔法にかけられるが如く忍び寄る何とも言い難いオーラ!
屈折したトリル!
音楽的力点はそこから突如として熱を帯びてくる。
そのあとのオーボエ、サックスの歌うこと歌うこと。
そこへ突然にしてリズミカルなバスクラが現れる!木管低音が冴える!キレがいい。明確な音の輪郭だけを残し、竜巻のように次々に楽器を巻き込んでいく。
そして、遂に音楽力点が限界を超えて金管楽器郡が吠える!魅せる!
中国雑技団のような、際どいお玉じゃくしの群れで一撃、二撃、三撃!!
とどめのホルン!はさすがに最終到着地点の趣がある。
しかし、音楽的体力はまだ全然尽きてない。
やる気まんまんである!さらに奥地へ狂気の本体へと潜り込ませる。
鐘が鳴り、真っ暗な嵐の空を思わせるフレーズ
悲壮感、孤独感を含んだ退廃的ムード
それが次第に晴れていく
晴れた先に、かすかに見えるは、巨大なエネルギを含んだ優しいフレーズ。
これは、カオスな暗闇の最下層で、香るイングリッシュホルン!
美しい。神々しいまでに美しい。
完璧だ。
そして曲は急速にクライマックスへと向かう!
パーカッションによる主題の再現。
凄まじい集中力が生み出す、この緊張感である!!
そのキンキンに張り詰めたテンションのまま、冒頭の主題が再び再現され、曲は最後の輝きを放つ!
その様はまるで歌舞伎のはや着替えのように、魅惑的。
極彩色に溢れた絵巻物のようなこの曲。
これを吹奏楽でやるとは、いや、吹奏楽だから出来るのかもしれない。
なかなかの珍品。
レアだけど有名という存在自体もカオスな一曲。
是非一度。
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