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「もしも明日世界が終わるなら、私は今日リンゴの木を植えるだろう。」

ドイツの神学者マルティン・ルター










宗教改革に奔走したルターの反骨精神がじわり染みてくる名言だ。そもそも「リンゴ」は、キリスト教世界では「禁断の果実」に当たる。教会の圧力にも負けず、これからも将来に希望の種を託すという決意表明にも聞こえる。この言葉はルーマニア生まれの作家・詩人であるC・V・ゲオルギウも著作や、映画「感染列島」など度々引用されてきた。

さて、そんな金言が名づけられたこの曲だが、みなさんはどうお感じになっただろうか?

この曲はとてつもなく面白い曲だ。とんでもない仕掛けが山のように散りばめられている。






「きみは林檎の木を植える」は、どこが特殊なのか?






①ヘテロフォニー


同一の旋律を受けもつ奏者が、リズムやテンポを微妙にズラしたりすることで異なった装飾や音型が生じ、偶発的に瞬間的なゆらぎを生む。



②テクスチュアの創出

さまざまな音を重ね合わせある種異質な「特殊な響き」を作り上げることが重要。

主張するような攻めの音づくりをしよう。



③「微分音

半音よりさらに細かく分けられた音程。




④フラッター

フルートにフラッターがある。


英語の「R」の発音のときの形に舌を上あごに軽く当てて、「巻き舌」の形を作る。舌の力を抜き、強く息を出して「トゥルルル」と舌が振動するようにする。慣れてきたら、楽器を当てて練習する。初めのうちは、なかなか鳴らない音があるが根気強く続けているうちにできるようになるだろう。




⑤ハーモニクス 

またしてもフルートの音符に丸印が書かれており「harm.」とある。弦楽器ではフラジオレットと呼ばれる手法だ。フルートの場合、低い音の運指を使ってオーバーブローを用いる。通常は、高い音を出す手段だが、今回の場合、一般に純音(倍音を含まない音)に近い透明感のある美しい音になるため、フレーズの中でアクセント的に使用されている。



⑥フラクタルを構成原理

音形を波型に直してみたとき同じ波形の繰り返しがや、自己相関がある。バッハやバルトークが得意とした図形の美しい響き。



⑦パーカッション3人が風鈴を鳴らす



⑧フルートとクラリネットの音域が非常に高い


その一方エスクラリネットやピッコロは、高音を受け持っていない。




演奏者は、これらの要素を完全に消化し、音楽を完成させなければならない。と同時に木管楽器を中心にかなり難易度の高いパフォーマンスも要求されている。ハッキリ言うが、この曲を完璧に仕上げるにはかなりの時間と技量が必要だ。追及すればキリがない。ラチがあかない無限回廊にハマってしまうのだ。コンクールに向けて効率的に曲を仕上げる方法はないか、さらに検討してみよう。



「きみは林檎の木を植える」の演奏ポイント(全体)





独自の音色を作る

さまざまな音を組み合わせて、「特殊な響き」を作り出すことは先ほど述べた。響きというのは別にハーモニーだけの話ではない。たとえばあなたが森に入ったとする。そこで聞こえてくる音は、どんな音だろう。「風の音」「鳥のさえずり」「小川のせせらぎ」「雨粒の滴り落ちる音」「小動物の鳴き声」「木々のしなる音」など無限にある音が、ランダムに組み合わされて森の音を作っている。つまり、これこそがヘテロフォニーでありテクスチュアの創出なのだ。縦の線を厳密に合わせなくても、不自然には聞こえない自然な音の環境を作るのだ。人間がこれを行う場合一番気をつけなければならないのが音色だ。たとえば今の森の音の例だと、「繁華街のざわざわした音」や、「ピコピコいう電子音」は、森の音とは混じらない。ピッチが合えば音が混じるとかそういう次元の話ではない。その環境下では異質なものだからだ。つまりそういった意味で音色の響きを合わせなければいけないのだ。これにはさまざまな方法がある。演奏者全員で曲のストーリーを共有すること。イメージを共有させ明確な意思をもって演奏することが必要とされる。




自然の「ゆらぎ」

音楽に自然な「ゆらぎ」があるため、一つとして同じ演奏はできない。それはまるで、高層ビルの屋上から1枚のメモ用紙を放り投げたときの不規則な軌道のように、偶発的要素が積み重なられている。しかし、やがて紙は、地面に向かって流れていく。作曲者はすべて計算の内なのだ。この曲は縦を揃えるピッチを揃える、などといった指導だけでは理解できないのだ。縦の線をバラしたり強弱記号やアクセントの位置がパートによって違ったり、一味違う曲の構造が、まったく新しい響きを生み出しているのだ。一曲を通して美しい響きが保たれている。混沌に見えて汚い音は丁寧に取り除かれている。やはり音作りが曲の印象を左右する。

最初のカオス的な感じが次第に秩序立っていく。流れとしてはそうだ。作曲者によると、[F]でラヴェルの「ダフニスとクロエ」の夜明けのメロディーを取り込んだという。まるでアハ体験のように、意識して聞いても分らないが、いつの間にか気がつくと音の色が変わっている。まさに夜明けの空の色の変化だ。そんな流れを造りこまなければならない。




「見立て」


同時に、小鳥のさえずり、風の音、樹が成長していく様子などが要所に織り込まれている。これは見立ての音だ。「ダフニスとクロエ」の鳥の鳴き声を似せたピッコロのフレーズのように、特徴的に演奏しなければならない。




「ブレンド力」

打楽器と管楽器の音をどれだけブレンドできるかがひとつの焦点になる。ダイナミクスが完全に融合し、溶け合い一つの流れになるよう。幾度も練習したいところだ。




「正確なダイナミクス」

完璧なバランスのまま、クレッシェンドとデクレッシェンドをしよう。音量や息のスピードがズレた瞬間に音楽が分離すると心得ること。それには、まずcresc.の到達点を打ち合わせすること。



「不安定な箇所で音が停滞しないこと」

発音が甘くなったり、短い音で歯切れが悪くならないようにしよう。不安定な部分も含めこの曲の魅力の一つだ。恐れずに意思を持って吹くこと。



「奏者はスコアに目を通すこと」

スコアを見て、同じ動きをするグループを認識しよう。この曲は複雑で数が多い。また、同じ動きをするグループと、似ているが微妙に違う動きのグループがいる。なんとなく耳で合わせてしまうのは危険。



「音色変化は、ぼんやり→明るくハッキリ[D]→やわらかく」



「曲全体の流れをつかむこと」

冒頭から最後の音までのどう作るかという「構成」なしに漫然と練習をしても、この曲の演奏は務まらない。フレーズを長く感じて。






「きみは林檎の木を植える」の演奏ポイント(シーンごと)






[冒頭部分]

一発目の音は重要。全員で全音符にしてハーモニーをしっかりキメよう。オーボエは、最初あまりビブラートをかけすぎないこと。FFの打ち込みの音がいつのまにかオーボエにすり替わっているような印象に仕上げよう。3連符のデクレッシェンドでは音がクリアなまま音量を小さくするようにしよう。




[A]

縦を微妙にズラしてザワザワとした音を作り出すのが狙いだが、どうも音符が細かすぎるわけでもない。工夫してみよう。全体の音のバランスを厳密に調整しよう。



[C]

アクセントの位置が、パートごとにバラバラな箇所だ。少しオーバーに表現しよう。アクセントをオーバーにするよりも、そのほかの部分を目立たない音色で吹いてみるといい。音量を抑え気味にしてもいいのだがバランスを見て調整してほしい。




[D]

2から3小節目はオーボエが主役。ピッコロとクラリネットはオーボエをよく聞くこと。





[E]

pp
の難所であるが、発音のニュアンスとタイミングがズレないように意識すること。








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2013/01/20 13:08:15